はぐれ雲。
「と、いうことは、このホテルによう来るんやな。カメラの位置を知ってるんや。
それで、エレベーターの前で顔隠してんねん。でもまさか、新しくカメラが付いてるとは思わへんかったんやろうな」
桜井は自分の話に頷いていた。

再びパソコン画面に見入る。
客室前の廊下を映した映像を早送りしていくと、林が出た30分後に、あの男たちが慌てて出てくる。例のスーツケースを持って。

やはり、その男たちも林と同じ行動をとった。
エレベーター前の監視カメラだけに、注意を払っている。

「女が出て来るところまで、早送りしてくれ」
桜井が言った。

しかし、青木真梨子が出てくる様子は一向に画面に映し出されない。

朝が来て、清掃員がその部屋に入って行く。

「女が、出てきてへん」

「ええ」

「出てきたとしたら…」

桜井が画面を見ながら、顎を撫でた。
「スーツケースの中におったっちゅうことか」

達也は顔をパソコンから背けると、一歩引き下がった。

「まさか…」
腰にやった手が震えていた。
うつむいた顔にはうっすらと汗が滲んでいた。


達也たちは、三課に防犯カメラの提供をしたホテルに足を運んだ。

この辺りでは、3本の指に入るくらいの高級老舗ホテルだ。

ここに来る前に真梨子の携帯に電話をかけてみたが、つながらなかった。調べてみると、彼女の家族から所轄に捜索願が出されていたことがわかった。

ホテル中の監視カメラ映像ををくまなく調べたが、青木真梨子がこのホテルを出る姿は映っていない。
ホテルを出る林と、スーツケースをもった二人の男の姿はすでに確認済にもかかわらず。

山中で見つかった女性遺体は、青木真梨子なのではないか、にわかに捜査陣は色めき立つ。
思わぬところから事件解決の糸口が見つかった、彼らの誰もがそう思っていた。

しかし、達也は内心間違いであってほしいと願っていた。

今、別の刑事たちが真梨子の自宅マンションへ向かっている。

彼女のヘアブラシなどを持ち帰り、発見された女性遺体と真梨子の毛髪から採取されたDNAの照合を行う予定だ。


< 385 / 432 >

この作品をシェア

pagetop