はぐれ雲。
ホテルの支配人の話では、問題の廊下の監視カメラは真梨子たちを捉える二日前に設置したとのことだった。

「私どもとしては、設置はしたくなかったんです。客室前というのは、やはりプライベート空間でもありますので。ただ窃盗事件が多発しているとなれば、当ホテルの評判にも関わることですので、やむなく。せっかく他のホテルよりも、チェックインの時間を早く、そしてチェックアウトはごゆっくりしていただけることを売りにしておりますのに…。
見た目にも配慮して、廊下の調度品に似合うタイプのものを特別に注文したんです」

話がなかなか進みそうになかったので、達也が支配人の言葉の合間を見計らって尋ねた。

「この男性を見たことは?」

監視カメラの映像を拡大してプリントアウトしたものを見せる。

初老の支配人は、胸元から老眼鏡を取り出すと、まじまじとそれを見た。遠ざけたり、近付けたりしながら。

「おそらく、服部さま…かと」

「服部?」

「ええ、服部和行さまです」

支配人は眼鏡をテーブルに置くと、頷いた。

「よく当ホテルをご利用くださいます」

「一人で?それとも…」

「いつも女性とご一緒だったと思いますが」

「その女性というのは」
達也が、真梨子の両親から拝借してきた写真を差し出す。
「この人ですか?」

彼は再び眼鏡をかけて、写真を手に取った。

「うーん、なんとも。今フロントの者を呼びますので、しばらくお待ちください」

そう言って立ち上がると、部屋をあとにした。

残された二人は、出されたコーヒーに手を伸ばす。

「予想はしてましたが、やはり偽名でしたね」

「おぉ、あいつのことやからな、当然やろ」

桜井は真剣だった。
林哲郎を追い詰められる最後のチャンスだと思っているに違いない。

支配人が、若い男性従業員を連れて戻ってきた。

先ほどと同じ質問を、彼に投げかける。

すると、真梨子の写真を見て「あぁ」と彼は声を出した。

「林、いえ服部という男性と一緒だった女性は、この人で間違いないですか」

「服部さまは複数の女性と来られていましたが、そのうちのお一人ですね」
もう一度彼は写真に目を落とす。


< 386 / 432 >

この作品をシェア

pagetop