はぐれ雲。
「少し前です。チェックインされる際に当ホテルでは宿泊カードをご記入いただくことになっているのですが、ペンのインクが切れているとたいそうお怒りになられまして…ですからよく覚えています。
服部さまとご一緒にチェックインされることもあれば、別々にお部屋に入られることもありました」

「彼女が書いた宿泊カード、今でもこちらに置いてありますか」

「ええ、ございますが」
達也と桜井はお互いの顔をみて、頷いた。

最後に問題となっている客室を見せてもらったが、部屋にある窓はどれも10センチ程度しか開かず、たとえ女性でもここから出ることは不可能と判断された。

達也たちが持ち帰った宿泊カードからは、青木真梨子の指紋が検出された。

これで真梨子があのホテルにいたことは明らかとなった。

そしてスーツケースに入れられて部屋を出た…。

少し遅れて、遺体のDNAと真梨子の部屋から押収した毛髪のDNAが一致した、と連絡が入る。これでとうとうこの事件の被害者が青木真梨子と断定された。

あとは遺体に付着していた微量の体液の特定を急がねばならない。

ターゲットは圭条会大幹部の林哲郎。


尾行していた捜査員が、ホテルのバーで林が口をつけたグラスをやっとの思いで入手した。

几帳面は林は、使う前と後に必ずグラスやカトラリーを全て拭く、それを桜井は知っていた。
なかなか、尻尾を出さない。自分の痕跡を残さないようにするためなのだろう。

「ええか、どんな小さな隙も見逃すなよ。あいつかて人間や、絶対に隙はある。多少強引でも必ずDNA鑑定できるもんを取ってこい」
桜井はそう指示した。

何度も失敗を繰り返しつつも、桜井たちは諦めなかった。

彼の一瞬の隙を待つ。

ただ、待ち続ける。

息を潜めて。

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