ハルアトスの姫君―君の始まり―
「キースの強さは弱さと紙一重だ。その境目を奴は生きている。
一歩でも踏み外せばすぐに落ちる、そんな細い綱渡りをしているようなものだ。
その緊張感の中でああして剣を振ることができるのが奴の強さであり、奴以外の人間はそこしか見ないからこそ奴を強いと感じる。実際にジア、お前もそうだろう?」


否定はできない言葉だった。だからジアは素直に頷いた。


「だがそれは正しくない。奴はただ強いだけじゃない。
そこに気付けた時、お前はもっと強くなる。そして奴も…正しい強さを手に入れるだろうな。」

「今のキースの強さは『間違ってるの』?」

「半分くらいは間違っている。その点ではお前の方が正しく強いと言える。
もちろん剣の腕はキースの方がはるかに上だ。」

「…そんなことは言われなくても分かってるもん。」

「顔が変わったな、ジア。」

「え?それは傷だらけだから…?」

「そうではない。分かったんだろう、足りないものの正体。」


そう言われて、ジアは自分がまだシュリにその答えを話していないことに気付く。ジアは一度だけ小さく深呼吸して、口を開いた。



「…あたしは、『覚悟』だと思ったの。」

「覚悟にも色々ある。どんな覚悟だ?」

「…何かを奪ってそれでも進む覚悟、だけど…奪った事実も背負う覚悟…それと…。」


何かを奪う。それは善悪で言ったら確実に悪だ。
それでも進むのは…覚悟を決めたからだ。


「生きる覚悟。全てを背負って、今を生きる覚悟。」

「合格だ、ジア。」


シュリは満足げな笑みを零した。
その表情は優しくもあり美しくもあった。

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