ハルアトスの姫君―君の始まり―
「…すまんな、ジア。」

「え?何が…?」

「私は魔女なのに、お前の傷一つ癒せない。」

「そうなの?」


ジアの声には純粋にそれを問うていた。
ジアは『魔女なら何でも魔法で解決できる』と思っていた。だからこそシュリの言葉は意外だった。


「…魔法は万能じゃない。」

「どういうこと?」

「私が使えるのは『攻撃魔法』が主だ。それでも生活に必要な魔法、たとえば物を動かしたりとかそういうものは一通りできる。だが、治癒だけは…。」


シュリは少しだけ切なげな表情を浮かべながらそう言った。
その表情にどんな表情を返せばいいのか戸惑う。
笑顔も違うし、かといって哀しそうな表情を浮かべることも違う気がした。
結局曖昧に真面目な顔をして受け答えに応じることしかできない。


「あたしの怪我、大したことなかったし…クロハがちゃんと治療してくれたから大丈夫だよ。シュリに謝られるようなことじゃない。」

「荒療治だったな、私は。」

「え?」

「お前が早く『足りないもの』を自覚しなければ危険だと思った。だからあえてお前だけを危険な場所に送り込んだ。
『死ぬ』とは最初から思っていない。だが、それでも傷の一つや二つは負うであろうことは分かっていた。治癒できぬものがする所業ではなかったな。だから…すまない。」

「ううん。あたしの怪我は寝てれば治るもん。大丈夫だよ。
あたし、あの時ああ言われてなかったら、キースに甘えっぱなしだったから…。」

「キースは多少甘えられていた方が力を発揮する。
そこはそのままでいいのかもしれない。
ただ…。」


シュリの表情が険しくなった。
ジアもごくりと息を飲んだ。

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