ハルアトスの姫君―君の始まり―
「目、腫れてる。」

「え?」


キースの指が目尻に移動していた。
繊細な手つきに急に恥ずかしくなって頬が熱い。


「熱…ある?」

「ないないないっ!大丈夫!」

「そう?」

「うん。大丈夫…だから。目もちゃんと冷やす。」

「そうだね。冷やした方がいい。」

「あたし、井戸に行ってくるよ。」

「あ、待ってジア。」


ぐいっと腕を引かれる。いつもよりも強い力に驚いてキースの顔を見つめる。


「見える景色は…もう君の知る景色じゃないよ。」

「え…?それってどういう…。」

「君の知らない景色しかもう、ヴィトックスに存在しない。
…村は燃えた。この家以外は全て灰と化した。」

「燃え…た…?」


キースの言葉を上手く飲み込めない。
燃えた?灰になった?たった一晩でそんなこと、あり得るの?


「ヒトの力じゃない。魔法だよ。一晩どころかものの数分で灰になった。
…止められなかった。」


どこか切なそうに苦しそうにそう言ったキースに何も言えなくなる。


「分かった。じゃあ心して行く。」


掴まれた腕にさらにぐっと力が込められた。

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