ハルアトスの姫君―君の始まり―
「俺も行くよ。」

「…大丈夫だよ。」

「心配だから。」


焦げ茶色の真っすぐな瞳を向けられては、何も言えない。
キースにゆっくりと背を向けてドアの方へと歩み出す。


ドアに手を掛けた。
ドアノブを回し、そのまま押す。





…昨日とは違う匂いがすぐ鼻にやってきた。
焦げ臭い。ただ単純に。


そして景色が…痛い。
本当に何もない。
森も草も家も全て。


確かに来た時から誰もいなかったけれど、それ以上に何もなくなった景色がそこにあった。


風が一瞬強くなる。
それとともに灰が舞い上がった。





「…何もない。本当に。」

「何もできなかった。火がただ燃やし尽くすのを黙って見ていた。」


キースが淡々と呟いた。

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