ハルアトスの姫君―君の始まり―
「俺にとって、良し悪しは関係ない。
…今言わなくちゃならない。それだけはちゃんと分かってるから。」


逃げのような答えを口にしたキースはあたしの腕を引いた。


「今日は家から出ない方がいい。
シュリ様と俺で少し村を見てくるから。」

「あたしも手伝うよ。」

「…ジアには出ないでほしい。ミアにもクロハにも。」

「…なんで?」

「まだブレイジリアスが完全に消えたとは言えないから。
みんなを危険な目に遭わせたくはない。」

「…キース…。」





…一つだけ分かった。
いつものキースと違うところ。
『気迫』だ。


いつものキースはいつだって優しく、柔らかい。
でも今日はそうじゃない。
優しくないわけじゃない。でも、柔らかさは存在しない。


どこかで何かを思いつめている。
表情が険しい。笑顔で隠しきれていない。





「分かった。じゃあ夜に。」

「うん。」


聞きわけの良いフリなんてするものじゃない。
そのことに気付くのはもう少し先のことだった。

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