ハルアトスの姫君―君の始まり―
「ごめんなさい。…あなたの苦しい想いを呼び起こしてしまって。
でも…教えてください。今、あなたしかいないんです。あたしたちに何かを話してくれる人は。」


勝手なことを言っているという自覚はちゃんとある。
表情を歪ませたのは間違いなく自分で、訊かずにいなくなればこの人の古傷に触れずに済むということも頭では理解している。


…それでも、近付くためには。


「…ますます似ておられる。お嬢さんは。」

「え…?」

「マリアンヌ様もそれはそれは強い眼差しの持ち主じゃった…。
強さの中に高貴な美しさ、そして気高さを秘めておられた。
…授名式のことじゃったな、お嬢さん?」

「え、ええ。2月15日に…何があったの?」

「ハルアトス紀1993年…。
それはハルアトス王家、ひいてはこの国全体にとって実に喜ばしい出来事が起きたんじゃ。
…双子の姫君がお生まれになった。」

「双子の姫君?」

「そうじゃ…。生きておられれば…もう18歳くらいになるんじゃなかろうか…。」

「生きてればって…?」

「2月15日…姫君がお生まれになって3ヶ月と12日経ったその日に授名式は執り行われた。
式は順調に、穏やかに…そう、笑顔に満ちて穏やかに進んだ。
お二人の名を呼ぶまでは。」


ギルの眼差しが切なげに揺れる。

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