ハルアトスの姫君―君の始まり―
「キース。手を離さないならば私だって黙ってはいないぞ。」

「キース・シャンドルド。手を離しなさい。」

「はい。」


今まで聴いたどんな声よりも冷え切った声でキースはそう言った。
焦点の合わない虚ろな目が何を映しているのか、あたしには見えない。


「…っ…キース…。」


どこを見ているの?声は…もう届かないの?
訊きたいことがたくさんある。怒ってもいる。


置いて行かれたこと。
勝手に『さよなら』と言ったこと。
…一人で全て抱えたことも…怒ってる。


ぶつけたいのに、吐き出してしまいたいのに。
…触れて、確かめたいのに。


「ジア!大丈夫か?」

「だ、大丈夫…ちょっとひりひりするけど…。」

「キース…てめぇっ…!」


今にもキースに殴りかかろうとするクロハを、シュリの細い腕が制止する。
…ピタリ、と空気が止まる。


「無駄だ。何を言っても。
キースはジョアンナに魔法をかけられている。」

「彼の選んだ結果ですよ、シュリ・ヴァールズ。」

「私の名を呼ぶな。」


シュリの声が鋭く空気を切った。
シュリのきつい視線の先にいるシャリアスは、何故か奇妙なくらいに穏やかな笑顔を浮かべている。

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