ハルアトスの姫君―君の始まり―
小屋に戻って治療道具一式を準備する。普段使っているカバンにとにかく優先度の高い治療道具から入れていく。
ジア、シュリ、そしてキースの怪我を想定する。


「…魔法での怪我に対応できんのか…?」

「にゃあ…。」


ミアの声のトーンが下がる。
…心配なのだろう。こうしてジアと完全に離れ離れになるのなんて、おそらくミアの人生では初めてのことだろうから。


「対応できなくても対応してやる、くらいの気でいねぇとな。
ま、物理的攻撃なら消毒…あとは止血できるもんが必要だな。」


そう言いながら詰めていく。
物が足りる程度の怪我であってほしいと思う。
そんなことを考えていると、ミアが不意にまたおれの足に触れた。


「…どうした?」

「……。」


鳴き声もあげない。ただ黙って、銀と金の瞳がおれを見つめている。


「ミア?」


触れる手が心なしか震えていることにようやく気付く。
ミアの震えに気付くと同時に、そんなに分かりやすいミアの変化に気付かない程度に自分も動揺していたことに気付く。


おれはそっとミアを持ち上げた。
そして額を軽く合わせる。
目線は自然と合わさる。


「怖いし、不安だよな。ごめん、いつもならもっとすぐ気付いてやれんだけど…。
今日はゆとりがねーみてぇだ。おれも動揺してんだ、多分。」


多分じゃない、絶対だ。
動揺している。冷静になりたくても、不安や恐れがそれを凌駕している。

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