ハルアトスの姫君―君の始まり―
向ける刃
* * *


カツカツと足音だけがやけに響く広間。
一番刃を向けたくなかった人に、刃を向けなくてはならない自分がいた。


「瞳を傷付けない、瞳を傷付けない…。」


命令を繰り返し呟くキースはもちろん〝知っている〟キースではない。
今、刃を向けなくてはならない存在だということも分かっている。
それでも〝知っている〟キースと同じ風貌であるからこそ、なるべくなら剣を抜きたくはない。


「…本気なの?」

「何がです?」

「あたしに…剣を向けること。」

「もちろんです。」


何の感情も読み取ることのできないような無表情で、キースはゆっくりと長剣を抜いた。
その剣先は真っすぐにあたしに向けられている。


「このまま突いたら、あなたの瞳を傷付けてしまいますね。」

「っ…。」


―――本気だ、と直感的に分かる。


同じだけど同じじゃない。
…シュリと全く同じ状況だとは思いたくない。
でも、多分それに近い。


「キース…。」

「剣を抜いて下さい。話すことなどもう何もありません。」


あたしはゆっくりと柄に手をかけた。
剣を抜かなくては殺られる。


剣を抜いて、真っすぐに構える。
手が怖いくらいに震えた。

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