ハルアトスの姫君―君の始まり―
【キースside】


「うん。だから俺の命をジアにあげる。
それが今の俺に返せる全てだから。」


よくもそんなことが言えたものだと、口に出してからそんな自分に驚いた。
それだけ、誰かに委ねてみたかったのかもしれない。
もう二度と目覚めるはずのなかった自分が目覚めたことに驚いていたのも事実だった。


確かに『死ぬ』はずだったのに…。


その想いは目覚めた時には確実にあった。
だからすっと口にしてしまったのだ。


『…どうして…生きてるんだ…俺…。』

『死ねると…思ったのに。』


この言葉を吐いた時の彼女の顔は、きっと死ぬまで忘れられないだろう。
もしかすると、死ぬ間際にはこの表情を思い出すのかもしれない。


心外だとか、そんなことを思った顔じゃなかった。
一瞬、酷く哀しい顔をして、でもその瞳の気高さは失われずに。
ただ切なげな眼差しで俺を見つめた。
でもそれは本当に一瞬で、その後すぐにきつく睨まれた。当然と言えば当然だ。
そして引っ叩かれた。
記憶にある限りで、引っ叩かれたのは生まれて初めてだった。


その後に言われた言葉に実はかなり堪えていた。


『生きるも死ぬもあんたの勝手だけどね…』


その通りだ。しかし、そう思うのと同時に正反対の気持ちもまた生まれた。

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