ハルアトスの姫君―君の始まり―
気付けば名を名乗り、彼女の瞳を見つめていた。


金に光る右目と銀に光る左目。
ミアと呼ばれた猫はその逆だ。
…まるで二人で目を分け合ったかのように。


見つめれば見つめるほど、その瞳の中に曇りなんてものは見つけられなかった。
ただその瞳は淀みなく、光だけを真っすぐに放つ。
しかし彼女にとってはコンプレックスの塊だったようだ。
だからこそ綺麗だ、と自然に言えたのかもしれない。
美しく綺麗、それは嘘ではなかったから。


彼女に託してみたくなったのは、偶然でも何でもない。紛れもなく必然だった。
俺の顔を正面から引っ叩くほど真っすぐに俺に向き合ったジアに『彼女』を思い出す。


…死ぬはずだった。死を覚悟していた。
一度、俺は『生』を諦めた。
二度と光を仰ぐことはないと信じていた。


俺の諦めを許さなかった君に返せるものは…今の俺には『命』しかない。
元々必ず恩返しをするような情に厚い人間なんかじゃない。


でも見てみたいと思ったんだ。
『生を捨てない生き方』を。


君のその瞳が目指す先を。


できるならば、その手を汚さないように。

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