ハルアトスの姫君―君の始まり―
「キース…?」
「城内に入るまで、だから。」

 いたずらっぽく笑ってキースがジアの手をとって歩みを進める。ジアの小さい歩幅にキースがそっと合わせてくれている。そんな些細なことに気付けば、ただそれだけで笑みがこぼれてしまうくらいに幸せだ。

「ねぇ、キース。これからどうするの?」
「そうだね…まぁ傍にいたいけど、城に住むことは無理だから城下に家を借りようかな。剣術でも教えながら生計を立てるよ。」
「あたしに魔法を教える…とかは?」
「え?」
「だってキースがあたしの魔力を封印したんでしょう?じゃあその封印された魔力のこととかを考えたらキースに徐々に魔力の封印を解いてもらう必要があると思うんだけど…。」
「それはまぁ確かにそうだけど…でも、国王陛下や王妃様はともかく、周辺の側近の方々は俺をあまり好ましく思ってないし…そんなに早急には…。」
「好ましく思っていないのはキースのことを知らないからよ。…知らないから遠ざけるという手段しか取れない。世界を変えたいならまずは王宮から!そうと決まれば謝罪もだけど、住み込みで働かせて下さいってお父様に話しに行くわよ!」
「ちょっ…そんなに上手くことが進むかなぁ…。」
「進めてみせる!あたしに任せて!」
「…まったく、ジアには敵わないよ。」

 穏やかな笑みを浮かべて、キースは繋いだ手を強く引いた。もう冬の空気の冷たさなんて気にならなくなっていた。

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