ハルアトスの姫君―君の始まり―
『人はなぜ、戦うのだろう?』

 その問いの答えは未だに見えないままだ。ただ、戦いが哀しみしか生み出さないことは痛いほど分かった。ジアにはそれだけで充分だ。もう哀しみは、これ以上必要ない。
 強くなりたいと願うのは、守りたい人がいるからだ。守りたいと思う先にはいつだって大切な人の笑顔が、そして大切な人と積み重ねた時がある。
 想いは消えない。薄れていくことはあっても消え去ることはない。だからもう、これ以上の哀しみを生まないために戦わない。
―――あたしは剣を、もう抜かない。

 誰かを想う力を原動力に変え、幸せで溢れる世界を作ること。幸せの形はひとそれぞれでいいのだと認め合える世界であること。その必要性を感じさせてくれたのは、大切な出会いだった。

「出会えて良かった。シュリにもシャリアスにも、ジョアンナにも…。もちろんクロハにも、ミアにも。…そしてキースに。」
「俺も、出会えて良かった。自分を必要としてくれる人がいることを今は知ったから。」

 切り開いた運命の中で出会えたことを、大切にして生きていく。生まれた〝好き〟という想いを携えて。
 淡い雪がちらちらと舞い降りる。地面に吸い込まれるように消えていく雪がふと目に入る。

「…来年はジアと桜が見たいな。」
「うん。絶対一緒に見ようね!」
「春が…待ち遠しい。」
「…そうだね、早く暖かくなれー!」
「手と心は温かいんだけどなぁ…。他も温めてくれる?」
「なっ…もう早く中入るよ!」

 繋いだ手を今度はジアからぎゅっと強く握り返した。さらに強く握り返された手に微笑めば、もっと優しい笑みが降ってくる。

「好きだなぁ、ジアのそういうところ。」
「あっ…ありがとっ…ってもういいからっ…!」


*fin*

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