飛べない黒猫
真央の体温も鼓動も震える声も、肌を通じて伝わった。

あたたかな温もりに身を預け、俺は、小さく細い真央の身体にすがり泣いた。


自分の出生の事実を知った時の憤り、殺人を犯す男の血を継ぐ恐怖、幼い頃から感じていた孤独…

押さえ込もうとしていた感情が、真央の腕の中で全て溢れ出していた。




赤ん坊は、愛情の中で生を受け、祝福を受けて生まれてくる。


俺は望まれて生まれたのか。
愛されて生まれたのか。



まだ幼かった母は、苦痛と恐怖の中で俺を宿したはずだ。

妊娠を知った時の彼女は、絶望したに違いない。
悪魔の子を宿してしまったのだから…


許し難い屈辱を受け、怒りと憎しみの対象でしかない男の…子供だ。

愛情を持てる訳がない。


それに、周りはどう思う?
親は?家族は?



親戚付き合いが無い事に納得する。

俺を産む事で、彼女は大きな代償を払ったのだ。
故郷を離れ、親元を離れ、ひとりきりで俺を産み育てた。



強姦した男と、同じ髪と瞳の色。

俺を見るたびに、あの男と重なって怯える事はなかったのか。



自分が生まれてきたことが罪なんだ。

何故、産んだ。
堕ろして…殺してくれていた方が、生まれなかった方が良かった。


そんな事を考えていた…



真央の言葉が、温もりが、俺を救う。


自分の中で汚く淀む暗い心の闇も、満たしても満たしても埋まらない空虚な心の穴も、ぱっくりと割れドクドクと血をたれ流す心の痛みも…

言葉にしなくても伝わっていた。
痛みを、わかっていた。


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