飛べない黒猫
少年かと思った。

青田の後ろにピッタリと隠れるように立っていた。
小刻みに震えているのが、離れていても分かった。


「私の娘、真央です。」


怯えきっていた。
それでも丁寧に真央と呼ばれた少女は頭を下げた。


ショートカットの髪の色も
長い睫毛の大きな瞳の色も
無地のセーターも
カーゴパンツも
すべてが黒一色。

そして透けるように白い肌には、ピンクのチークも輝くリップグロスもつけられてはいなかった。


今まで出会った事はなかったけど、きっと美少年ってのは、こんな感じなんだろう。
静かに席につき伏し目がちにじっとしている少女を見て、そんな事を思ったりした。

確か16歳だと言ってた。
花の乙女をつかまえて、少年と見間違うなんて失礼極まりないか。

服装のせいか。
それと小柄な体つき。

童顔で黒目がちな大きな目が、少女を幼く感じさせるのだ。



しかし…人見知り、にしても尋常じゃない。


俺達が怖いのか?

俺か?
…いや、違う。
彼女は俺の姿をちゃんと見てはいない。


ものが言えないと言っていた。
母親を亡くした時のショックでだと言っていた。

精神的に不安定なのか…



ジロジロ見ていた訳ではないが、目が合った。
感電したように小さく声を漏らし、真央はうつむいた。

そして恐怖で凍り付いたように動かなくなり、大きな瞳にはみるみるうちに涙が溜まった。


…パニック障害?


真央は泣かなかった。
涙をこぼすまいと必死で堪えている。

奇声をあげる事も無く、感情をあらわにする事も無く。

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