飛べない黒猫
おかしい…
何故だれも彼女に手を差し伸べないのだ。


青田はワインを注ぎ、会話を交わしながら食事を勧めた。
洋子も、にこやかに応じている。
和野は、言葉少なに料理をテーブルに運んで皿に取り分けていた。


だが、皆、この異変に気付いていない訳ではなさそうだ。
自然に振る舞ってはいるが、全神経を真央に注いでいるのが感じられた。


そっとしておけばいいのか?

なんだよ…
それならそうと、前もって言ってくれ。


蓮はワイングラスを手に取り、香りを楽しむこと無く一気に喉に流し込んだ。


今夜だけだ。
2人の出会いを受け入れ祝福することで、俺の役目は終わる。
母親の新たな人生の幸せを願い、俺は俺の変わらない生活を続けるのだから。



蓮は、出来るだけ普通に食事を始めた。
前菜の生ハムとチーズを食べ終えた頃には、真央も落ち着きを取り戻したようだった。

ちゃんと見ているわけで無く、なんとなく視界のはしで感じるといった程度だから、はっきりとは言えないが…いや、見当外れではなさそうだ。

タイミングを心得ているだろう和野が、真央に飲み物を持ってきた。


「レモネードですよ、熱いから少しずつね…」


真央はコクリと頷きゆっくりと飲み始めた。
震えは止まったようだった。

そして、しばらくするとナイフとフォークを手に取り食事を始めた。

周りに漂っていた緊張を含んだ空気が、やっと緩んだ。



おかしなものだ。
見ないようにしようと思うと、逆に気になるものらしい。


真央には色が無い。
冬は黒やグレー色の服が多いのはわかるが、この子はすべて真っ黒だ。

色彩感覚に問題がある訳でもないだろう。
少女の作ったというガラスの作品は、どれも美しくカラフルな色彩に溢れている。

…まあ、余計なお世話ってモンか。
本人の好みだ、他人がとやかく言うものでもないし。



真央は行儀よく静かに食事を続けていた。
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