飛べない黒猫
ワイン1本を空けてしまった3人は、今度はスコッチのロックを飲み始め、いい心地に酔っていた。

青田が選んでかけた音楽は40年代のモダンジャズ。
マイルス・デイヴィスのトランペットが低く心地よく響いている。


ドラムの音の合間に、何か聞こえる…
廊下だ。
そこから物音が聞こえたような気がした。


…カシャカシャ


やはり聞こえる。


カタッ…
大人しくデザートのチェリータルトを食べていた真央が、おもむろに席を立ち廊下に急ぐ。
ドアを開け、すぐにまた閉めた。

黒い影が動いた。


「ミャー」


猫だった。
黒い猫が少女の足下に絡みついた。


「あらっ?ネコちゃん…?」


猫好きの洋子が身を乗り出す。


「そう、真央の相棒です。
彼女の部屋で留守番させてたんだが…
戸を開けて逃げ出して来てしまったようですね。」


「ふふっ、なついているわね。」


「えぇ、あんなふうに、いつも一緒で。」



真央が席に戻ると、猫はその後を追う。
濡れたようにツヤのある漆黒色の小柄な猫は、見知らぬ蓮達を警戒するようにチラリと見て、真央の足下に身を寄せた。


「まだ子猫ちゃん?」


「もう、5年以上だから立派な大人の猫です。
もともと体が小さいようで。」


この猫は、真央のようだと思った。
…いや、真央がこの黒猫のようなのか。
そんなこと考えながら、足下でうずくまる猫を眺めた。

俺の視線に気づき身動せず警戒している様は、まるで数時間前の真央じゃないか。


一応の安全確認を終えた猫は、耳をピンと立てて、いつ何が起きても素早く対応出来る体勢を保ったまま待機しているように見えた。
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