飛べない黒猫
このまま、ずっと。

父親と和野とクロオと…
3人プラス1匹で暮らしていくのだと思っていた。

真央はソファーで談笑している父親を見る。


知らない女の人と話す父親は、別の世界の人みたいで遠い存在に感じる。
いつも自分１人に注がれていた愛情の向きが変わったようで、すこし寂しくて悲しくなる。


気取らない明るい笑い声が部屋に響いた。

父親の横に座り、臆することなく楽しそうに話す人。
夏になると庭に咲くピンクの薔薇みたいに、華やかで美しい。

この人が、新しい母親になる。




真央の母親も優しく美しい人だった。
気高く凛と咲くユリの花のような…強い心を持っていた。

ゆるがない我が子への愛…
母親は意識が途切れるその瞬間まで、真央を守って死んでいったのだ。




「真央、こっちにおいで」


父親の声。
クロオの耳がピクリと動き、頭を持ち上げた。

真央が立ち上がろうと両足をずらすと、クロオはミャーと億劫そうに鳴き、それでも軽やかに真央の膝の上から飛び降りた。

真央は猫を抱きかかえて、父親のそばへ歩み寄る。
2人の視線も自分にむけられているのが分かった。

嫌だ…。

真央は、ぎゅっとクロオを抱きしめ父親を見た。


「もう、こんな時間だったんだね。
眠くないかい？
先に休ませて貰おうか？」


父親の言葉にホッとして頷く。
そして、2人にむかって頭を下げた。


「真央ちゃん今日はありがとう。
会えて嬉しかったわ。
おやすみなさい…」


その人は美しく微笑んだ。
真央は目を伏せうつむいた。

< 15 / 203 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop