飛べない黒猫
約束の時間より少し早く到着した。

校門の前には、風船で飾られたアーチと学園祭と書かれた大きな看板が立てかけられていた。

にぎやかな音楽が流れ、案内係の腕章を付けた生徒が、校内の見取り図とイベントが書かれたプログラムを配ってる。


真央は蓮の後ろにピッタリとくっつき、辺りを見回していた。


「待ち合わせまで時間あるから、そのへん見てみようか?
はい、プログラム。
どこか行きたいところある?」


「…」



あらら、完全に舞い上がっているな…



蓮が差し出したプログラムに気がついていないようす。
勿論、蓮の声も聞こえていない。

真央は蓮のシャツの裾をしっかり掴んで、ジッと辺りをうかがっている。



しかたがない…
真央がこの環境に慣れるまで、しばらくこのまま待機してるか。




蓮はプログラムを開き、それを眺める。
真央が落ち着いて話しかけてくるまで、待つことにしたのだ。


だが、周りは待ってくれない。

数人の生徒が明らかにこっちを見て、何か話している。

後ろの方からも声が聞こえる。
「外国人だよね」「日本語話せるのかな」「モデルみたい」

蓮は反射的に右手を隠す。


帽子でもかぶってくれば良かったな…蓮は溜息をついた。


蓮の赤い髪は、ただでさえ人目についてしまう。

数分で、蓮から一定の距離をおいた周りに、生徒達が集まっていた。


「蓮さーん!」遠くで蓮を呼ぶ声が聞こえる。
正面玄関から走り寄ってきた美香が、息をきらして蓮達の前に現れた。
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