飛べない黒猫
「その、連れ子って学生なんですか?」


岡田は、なおも食い下がる。
なんとか、ほころびを見つけて大きく裂き広げてやろうと構えているのだ。


「いいえ、もう立派な社会人です。
君も知っていますよね、アイ・シー・エム。
一流企業です。
そこのシステムプログラマーでした。
2年前に独立して、アイ・シー・エムの下請けをしています。」


「…えっ?アイ・シー・エム…って、あの…」


「そう。プログラマーとしてはずば抜けているのですね。
辞めた会社から…あの天下のアイ・シー・エムから依頼が来るのですから。
よほど、なんでしょうね。」


岡田は企業名を聞いて驚き、言葉につまる。


「義兄さんは…」


声が裏返る。
動揺が表に出るタイプ、やはり気が小さいのだ。


「その、連れ子をウチの会社にって、お考えですか?」


青田は岡田の考えている事は、薄々わかっていた。
なんとか、自分や息子が青田の後を引き継ぎたいと考えているのだ。


「それは、私が決めることではありません。
彼がそれを望んでいるとは限らないですからね。」


「望めばあり得るってことですか?」


岡田の顔色が変わる。
落ちつきなく膝小僧を揺らして青田の返事を待つ。


「もちろん、ありえます。
優秀な人材は、会社の宝です。」


岡田はうつむき、少し青ざめて「…そうですか」と、つぶやく。
そして、ぎこちなく立ち上がった。


「わかりました。
では…私はこれて…」


「あぁ、心配かけたようで申し訳なかったですね。
…楽しいクリスマスを。」


青田はニッコリ微笑んだ。

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