飛べない黒猫
下着姿の真央は、ベッドに広げた黒のワンピースの裾を触り、見事に編み込まれたレースの模様を指でなぞった。

父親からのクリスマスプレゼント。

オーダーメイドで作られた服は、真央の細身の体にピッタリと形良く馴染むだろう。

大人っぽいデザインが意外だった。

大きくあいた首もとや、裾が広がった袖口、膝が見える位の裾には、光沢のあるレースが付けられている。


真央はスカートを好まない。

そのことは、父親も知っているはずだった。





「真央に似合うと思って作ってもらったんだよ。
今日のパーティで着るといい。」

父親は嬉しそうに笑った。





玄関のドアが開き、しばらくすると車の排気音がした。
さっき、急にやって来た叔父の岡田が帰ったのだろう。

真央は、岡田が嫌いだった。
冷たい見下したような目で真央を見るのだ。


岡田の子供達…いとこにあたる兄妹も嫌いだった。

幼い頃から、何かと兄妹2人で真央をいじめるのだ。
大人の見ていない所で、バレないように。

法事や結婚式などで親戚が集まり、子供同士遊ぶ状況になると必ずターゲットにされた。

ただ、母親が亡くなって、真央は親戚が集まるような所へ行かなくなったので、それ以来は会っていない。



入れ替わるように、また車が着いた。
時計を見る。

時間だ…

玄関がにぎやかになる。



大丈夫。
ちゃんと出来る…

ゆっくりと深呼吸をした。

少し呼吸が震えている…


真央はワンピースを身につけてベッドから立ち上がった。


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