飛べない黒猫
…固まっている。

蓮の顔を見たまま、真央は固まった。


まだ、早かったか…。

「やっぱり寒そうだから、この次にしよう」蓮が、そう言おうとした瞬間…
真央は机のメモ帳に書き込みをして、目の前に差し出した。


”クロオ連れていってもいい?”


童顔の真央のイメージとは違う、大人びた綺麗な字。


「もちろんだ。」


蓮はニッコリと微笑む。

真央は、くるりと背を向け、クローゼットを開ける。
中から黒のダッフルコートを取り出し、腕に掛けた。


「じゃ、下に降りてクロオを捕獲しないとね。」


ポンと真央の肩に手を当てて、2人は一緒に部屋を出た。


「車で、時々でかける?」


階段を降りながら、真央は首を振る。
そして、親指と人差し指を近づけて「少し」の仕草。


「ごく、たまーに、出かける事がある…って感じ?」


真央はクスッと笑ってうなずいた。
そして、クロオのいる居間へとむかった。


蓮がコートとキーを持ち玄関で待っていると、クロオを抱えた真央がやって来た。

ひなたで寝ていたのだろう、力なくダラリと伸びたまま、クロオは無抵抗だった。




外の気温は低く若干、風もあるが、陽射しは充分やわらかい。

蓮は、深呼吸して腕を伸ばす。
冷たい新鮮な空気が肺から身体の隅々にまで行き渡る。


「うーん、気持ちがいい。
なっ、クロオ!」


クロオは真央の腕の中で、迷惑そうに身震いし丸くなった。
そんなクロオをしっかり抱いて、真央は外の眩しい陽の光に目を細め、あたりの景色をゆっくり見渡していた。
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