飛べない黒猫
家から出たがらないと聞いていたので、もっと怖がるのかと思っていたのだが、意外なほどスムーズに近所の散歩を楽しむことが出来ている。

真央は落ち着いた様子で、窓の景色を眺めていた。


膝の上のクロオは、車の排気音と振動が気に入らないらしく、そわそわしている。

車に乗って間もなくはニャアニャア鳴いていたのだが、さすがに鳴くのも疲れたらしく少し前から大人しくなった。


交通量の少ない、なるべく静かな住宅街を選んでドライブコースを決めた。

コンビニは近くにあるから、そこで買えばすぐなんだけど…
せっかくだし。

10分ほど走った所にあるホームーセンターまで足を伸ばした。
もう、まもなく到着。


「コピー用紙2冊買うんだけど…
他に何か要る物あるかい?」


真央は首を横に振る。


「ちらっと、一緒に見に行く?店の中…」


しばらく考えて、やはり首を横に振った。

無理はよくない。
今日はドライブだけでも上出来だ。


「じゃあ、俺、用紙買ってすぐ戻るからね。
車のドアーロックしておくよ、いい?」


クロオを抱きしめうなずいた。
明らかに様子がおかしい。

顔色も、一気に青ざめてきた。


「怖い?
1人でいるの不安なんだね?
…いいよ、買い物は後でまた来るから。
今はドライブにして…
そうだ、もう少しぐるっと回って帰ろうか。」


思いっきり首を振る。
買いに行けと言ってるのだ。

どうしたらいい。
…駄目だ、ここで怖い思いさせたら逆効果だ。

今日はこのまま帰ろう。


涙目の真央は、ゆっくり深呼吸を始めた。
片腕にクロオを抱き、もう片方の手で首にさげたムーンストーンを握っている。

< 48 / 203 >

この作品をシェア

pagetop