飛べない黒猫
「大丈夫だよ、怖くない。
クロオもついてるし、お守りもある。」


蓮は真央の頭を優しく撫でて、顔を覗き込み言った。


「そう、ゆっくり息を吸って…
ゆっくり吐いて…
楽になってきたね、大丈夫だね。」


真央の潤んだ目が蓮の目を見つめる。


…よし、落ち着いてきている。
大丈夫だ。


蓮は真央の頭を撫でながら考える。

そうか、猫やペンダントが、リラックスするための暗示の象徴になっていたのか。
それで気持ちが落ち着くのであれば、それは利用すべき。

子供だましだけど、まだ子供の真央には有効なんだ。


成長していくと共に、心もコントロール出来るようになってくる。
それまでの間なんだ。

蓮はクロオの頭を撫でた。


「よし、よし、クロオ。
ご苦労さん。」


不思議な事に、真央が発作で苦しんでいる時、クロオは黙ってそばにいる。
あれだけ強く抱いたりしたら、普通、猫は嫌がり逃げてしまうだろう。

以前、雑誌で読んだことがある。
人間の痛みや苦しみを癒してくれる動物がいるって…

セラピー犬などがそうだ。


病人や、老人がセラピー犬と時間を共にしている間、実際、彼らの症状は安定し、改善していく例もあるという。

案外、子供だまし…などではなく、医学的な根拠としっかりした科学的な裏付けがあるのかもしれない。



数分が経ち、真央の顔色も良くなった。


「さぁ、家に戻ろうか?」


でも、真央はやはり首を横に振り、戻るのを拒む。


「…そうか、わかった。」
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