飛べない黒猫
帰り道は大幅に変更され、車は公園通りの広場前に停まった。


「ほんとに、これでいいの?」


真央は笑う。


「そっか、ちょっと待ってな。」


蓮は車から降りて、目の前の小さな店の前に立った。



小さい頃、母親と一緒にお祭りに行った日のことを思い出す。

近くの神社の夏祭りだった。
浴衣を着せてもらって、下駄を履いて。

にぎやかな雑踏、焼き鳥の煙の匂い。
綿飴や、チョコバナナを食べた。

どれも美味しかったのだろうけど、何故か、たこ焼きを食べた事を思い出す。

1パックのたこ焼きを母親と一緒に食べた記憶は、今でも鮮明に覚えている。


近くで花火が上がって、すごく綺麗で。
ベンチに座って花火を見ながら食べたたこ焼きの味。


母親が亡くなってから、お祭りに行く事はなくなった。


時々、思い出していた。

もう一回、母親と食べたかった。



蓮が「ご褒美」と言った時、この記憶が蘇った。
きっと、母親も良かったねって言ってくれる。

たこ焼きは、真央の記憶の中の大切なもの。

特別のご褒美だから。



「できたてほやほや。うまそっ!」


発砲の紙皿のたこ焼きは、湯気が出ていてカツオ節がゆらゆら踊っている。
竹の楊枝が2本、蓮は1本を真央に渡し、もう1本を自分の手に持つ。


「女の子は、青のり無しとか言うらしいけど、邪道だよ。
青のり有ってのたこ焼きだ。
熱いから火傷しないように、ゆっくり食べるんだよ」


真央は端の1コをすくうように刺して、ふうふうと冷ましながら口に運んだ。

< 51 / 203 >

この作品をシェア

pagetop