聖戦物語 奇跡が紡ぐ序曲~overture~
 本当の気持ちは霧のように形を成していなくて、言葉にならない。だから、何も伝えられない。


 それでも、縋る温もりを手放す気などない心が、彼の服を掴む両の手のひらの力を強めていく。


 皺が跡になるほど強くしがみついて、服を涙で濡らしていく。


 アルジスの胸の中に顔を埋めても、小さく漏れる嗚咽は止まらない。


「………泣いていい。何があったかは知らないが、辛いときはそうするべきだ」


 じゃないと、心が壊れるから―――――。


 まるで、かつて体験したとでも言うようにさらりと零された言葉を、聞きとどめられるほどサリアに心の余裕はなかった。


 ただ、ひたすらに。


 彼の胸の中で泣き続け………それからのことは、いつの間にかふつりと途絶えてしまっていた。



 彼の胸の中で、泣き疲れて眠ってしまったから。




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