shining☆moon‐私の王子様‐
「じゃあ…」
ヴィンセントが私から目を離し、傍にいたフレンを見た。
そして不適な笑みを作り私に視線を向けた。
「…愉快な遊び、ちゃおっか。お姫様」
「…え?」
私はヴィンセントの言葉の意味が分からなかった。
愉快な遊び。
その言葉に殺気を感じるのは気のせいだろうか。
ヴィンセントは私の背中に回した手でパチンと指を鳴らしてフレンを見た。
私もつられてフレンの方を向く。
そしたら……。
「…フレン?」
「…ユリア……」
フレンの目の色が変わり、いつもの優しいフレンに戻っていた。
私の大好きな高さの声で、私の大好きな人が、私の名前をまた呼んでいる。
大好きな大好きなフレンが…。
視界が揺らぐ。
何でだろう。
あぁそうか。
私。
泣いているんだ。
どうして、なんで。
わからない。
ただ分かると言ったら、これだと思う。
嬉しいけど切ない。
徐々に近くなってくるヴィンセントの顔に私は身を委(ゆだ)ねるように目を閉じた。
嬉しいのはきっとフレンがもとに戻っていたこと。
切ないのはきっと私とヴィンセントが今からキスをする前提だからだと思う。
「ユリア!!」
フレンが慌ただしく、私の名前を呼ぶ。
だけど私は目を開けない。
きっと私を呼ぶフレンは瞼(まぶた)の向こうで焦っている表情をしてるのかな。
あぁあ。妄想しちゃった。
そんなはずないのに。
すると私の唇の上に冷たくて柔らかいものが載っかった。
私は直ぐにわかった。
これがフレン以外の人の唇なんだ、と。
ヴィンセントと唇が重なるまで、結構時間が長かった気がする。
なんでだろう。
まぁ、いっか。
これでフレンはもとに戻れるんだから。
私って軽い女だね。
「ユリア!!」
また聞こえたフレンの声に私はうっすらと目を開けた。
だけど見えるのはヴィンセントの顔。
私に合わせるように目をうっすら開けていて、合う目が私の身体から自由を奪い、抵抗することを拒む。
私は反射的に私は目を固く閉じる。
私の瞼の中、真っ暗で何も見えない。
だけどただ1つ光があると言えるなら、私はこの身を委ねるだろう。
光が…あるならだけど。
フレンの笑顔が私の涙でびしょ濡れになった心に溶けて消えていった。