前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
壁を叩き、ズルズルとその場に崩れる。
「豊福……」眉を八の字に下げる大雅の隣で、鈴理は元カレになんと声を掛ければ良いか分からなかった。
あの頃であれば、その身を抱き締めて慰めていただろう。
しかし、今はそれさえ自分に許されない。
玲の言うとおり、安易にしても余計空を傷付けるだけなのだ。
自分を未だに想う、彼の気持ちを傷付けるだけなのだ。
(―…空)
なにもできない自分が、ひどくもどかしい。
「豊福。向こうで落ち着こう。立てるかい?」
当たり前のように彼の傍に立ち、そっと両肩を抱く玲。
彼女は微笑み、静かに空を立たせて支えを買って出る。
スンと鼻を啜って、取り乱してしまったことを詫びる彼に、「自販機に行こう」何か飲めば落ち着くから。お母さまにリンゴジュースでも買って行こう。
背中を叩いて、積極的に声を掛ける玲に空は何度も相槌を打った。
自分のことで一杯一杯なのか、此方には目もくれなかった。