前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



「彼とは随分上手くやっているみたいだな。一子」

「それは睦まじいそうですよ。先ほども空さんが夕食の片付けをするから、と玲がついて行ったそうです。ふふっ、あの玲が食器を洗っていたそうですよ」
 

大雑把で家事にはてんで疎い愛娘が流し台に立つなんて想像ができるだろうか?

綻ぶ一子にそれは良い傾向だと源二は目尻を下げる。
 

あの二人の関係は非常に良好だ。
 
源二は男嫌いの愛娘が一端の男の子と共に食事を取り、和気藹々と会話している姿を目の当たりにしている。
 
娘が大嫌いなグリーンピースを避けて食べていると無遠慮に彼が叱っていた。

ぶう垂れていた娘だが、渋々平らげていたあのやり取り。
関係が良好だからこそ出来るものだ。微笑ましい。


こんなこともあった。

源二が庭園に通りかかった時のことだ。

若き婚約者達が地面にしゃがんで何かを観察していた。

何をしているのか、源二が様子を窺っていると、おもむろに空が口に草を銜えて音を鳴らし始める。

なるほど草笛を使って遊んでいるのか。

身近な遊びに無知の娘は同じように草笛を鳴らしているが、まったく鳴らず、顔を顰めていた。仕舞いには草にケチをつける有様だ。
 

と、悔し紛れに娘が彼の唇を奪っていたので、源二はそそくさと退散した。

人の恋路は邪魔するべからずである。



また婚約者の部屋を通りかかった時のこと。

障子が全開だったため、そこから光景を覗くとノートパソコンと睨めっこする空と教える玲の姿が。


「スペースキーってどれっすか」「これだ」「Zキーって何処っすか?」「これだぞ」「あれ…、変換できない。なんでアルファベットばっかりに」「入力モードが全角英数になっているからだ」「え?」「入力モードはこれだ」「……」「……」「先輩、ギブっす」「一時間は頑張るって言ってただろ?」
 

だって分かんないっすもん。
 
インターネット検索もまともにできないらしく、婚約者はアナログ人間には難しいと拗ねている。
 
「慣れていないだけだ」

ちゃんとやればできるから、苦笑して教える玲の姿を見てどれだけ涙が出そうになったか。


なにしろ娘は男嫌以下中略。男を見るだけで嫌悪以下中略。見る先はいつも女の子以下省略。
 

「あんなに親しく男の子と接している玲ははじめて見ましたよ。貴方様」

「ああ。あの玲に男の婚約者だなんて、今も夢を見ている気分だ」
 

少しならず睦ましい仲になりつつある二人。
 
本当の意味で上手くいくかは本人達次第だが、親としてはなんとしてもこのまま仲を取り持って欲しいところ。

もしも破局してしまえば……、破局後を想像してしまった御堂夫妻はすぐさま行動に移した(あの子なら絶対に女の子を連れてくる!)。
 

内線電話で召使に義理の息子になる予定の空を茶室に呼んでくれるよう連絡する。


程なくして、「失礼します」空が障子を開けて中に入ってくる。


頭を下げてくる彼は、二人の前で正座すると何か御用でしょうかと尋ねてきた。
 
妻の視線を受け止めながら、源二は空に尋ねる。


ここの暮らしは慣れたか、と。

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