前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
ほら、目を閉じると思い出す。
家庭教師を終え、遅めの夕食(時間帯的には夜食)をとるために廊下に出て大間に向かう途中、女中さんや仲居さん、一子さんがわたわたと慌てていたあの光景。
どうしたのかと尋ねれば、御堂先輩が台所に立っているとか。
あのガサツな御堂家長女が愛する者のために料理をしようなんて、誰もが驚き、喜び、お祝いだと口ずさんだ。
まるで祭囃子のような騒ぎに唖然としつつ、大間に入ると待ち構えていた源二さんに泣きつかれた。
「玲が。あの子がやっと花嫁修業をっ。女性らしい振る舞いを」
これも男の婚約者がいるおかげだと俺の肩を握り締めて、オイオイシクシク泣いていた源二さん。
おやおや、なんだか大袈裟なことになっているぞ。
腹の虫を鳴かせながら、引き攣り笑いを浮かべていた俺の下に御堂先輩が現れるのはそれから数分後のこと。
彼女はお盆を持って夜食を作ってみたんだ、と得意げにそれを俺の前に置いた。
向こうの御両親や教育係の蘭子さん、その他召使さんの異様な重圧を受けた俺はいつも以上のテンションで超嬉しいっすと喜んだという。
ご機嫌になる御堂先輩が作ってくれた料理を紹介してくれるんだけど、うん、メニューを見てびっくり。
それはそれは気持ちの篭ったおにぎりだった。
おにぎりというより、おつぶしって名前を改名した方が良いかもしれない。
とにかく型崩れを起こしている一つがどでかいおにぎりと、多分卵焼きにしたかったんであろうスクランブルエッグもどき。
それに焼きすぎている鮭が俺の前にどどーんと置かれた。
これはとてもワイルドな夜食っすね。
口から出そうになった言葉を嚥下し、「凄いっす」早速頂くっす、と俺は箸を手に取った。
この時のテンションはハイハイのアゲアゲである。
「少し見栄えは悪いかもしれないが、味はいけると思うんだ。味見はしていないんだが……こんなことなら少しは練習しておけば良かった」
自分の腕の悪さにしかめっ面を作るプリンセス。
途端に周囲の眼が俺にこう訴えた。頼む、彼女から料理のやる気を奪わないでくれ! って。
重圧が増す中、俺は御堂先輩の手料理をイタダキマス。
スクランブルエッグもどきを口に入れ咀嚼。
おにぎりも口に入れ咀嚼。
嚥下して、鮭を箸で割ると食べられる身をほぐしてお口へ。