前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―


しんみりと手料理の一件を思い出していると、「睦まじいなら良いのですが」母さんがちょっとだけ安堵した表情を見せた。
 

「母さんは心配しすぎなんだよ」


俺は上手くやれてると一笑を返した。

俺が嘆いているのは家庭教師のハードスケジュールに対してだけで、他は全然苦になっていない。

御堂先輩とは良好な関係を築き上げているし、向こうの御両親とだって談笑できている仲だ。

源二さんとは将棋の相手をするほどなんだぞ。
負けっぱなしだけど!
 

「上手くやれているならいいが、少しは寝るんだぞ。本当に顔色が優れない」

「分かってるよ、父さん。明日はゆっくり休むって。バイトも代わってもらったんだ。一日中寝ていられる」
 

と、着信が聞こえてきた。

借り物の携帯からだ。
成り行きで携帯を二つ持っている俺は、着信音で御堂家からだと気付き、箸を置いて腰を上げる。

机上で充電している携帯を手に取り、ボタンに指を掛けて「はい。豊福です」
 

『こんばんは。ご自宅でお休み中に失礼致します。蘭子でございます』

「蘭子さんですか。こんばんは。何か御用ですか?」


電話の相手は御堂先輩の教育係・蘭子さんだった。

彼女は俺の問い掛けに、『それが』声を窄めてくる。


まさか何か問題でもあったのか?
御堂先輩が我が儘を起こした?
それで手を焼いている?

……ありうる。

何度かそれで電話を頂戴したことがあるしな。

大半が茶道のマナーを守りきれなくて拗ねちまったってヤツなんだけど。


(またお茶を綺麗に立てられなくて注意されたのかなぁ。拗ねた御堂先輩をご機嫌するのには骨なんだけど)


捨て身で元気付ける必要がある。


ある程度覚悟を決めて返事を待つ。


けど俺に告げられたのは斜め上の回答だった。

蘭子さんから言われた言葉は明日のご予定はありますか? だった。


ご予定は朝昼晩寝るの一言に尽きるつもりなんだけど。


『もしご予定がなければ明日、どうぞお付き合いして欲しいことがあるのです』

「明日、何かありましたっけ?」


『はい。実は明日はお嬢様の属する部の舞台公演があるのです』

「……え? 舞台公演って先輩のっすか?」

『そうなんです』


ゲッ、なにそれ!

俺、彼女から何も聞いていないんだけど!?

……そういえば公演が近いってことは言っていたような。

俺がいつあるのか? って聞いたら、もうすぐの一言で終わったような。


俺も家庭教師が迫っていたからそれで終わっちまったんだけど、まさか明日だったなんて!


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