前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
「それはそうと、企業データを見返していたのですが……、真衣姉さん。“共食い”を起こすかもしれない財閥が少数検討できます。その中に」
御堂家の名が浮上しているのだが、気のせいだろうか。
声に出そうとしていた単語を嚥下し、鈴理はやっぱりなんでもないと姉に一笑した。
好敵手であろうと相手の家柄については悪く言いたくないのだ。
玲とは口論ばかりだが、内心では大切な友達だと思っている。
彼女も大切な友達だと思ってくれているからわざと発破をかけてくるのだろう。
腹立たしいが思いやりはある。
その気持ちは真摯に受け止めたい。
彼女だからこそ彼を託すことができる面もあるのだ(だからといって好きな人を譲る気はないのだが)。
やはり悪口(あっこう)はつきたくない。
「鈴理さん。あの」
今度は真衣が鈴理に対して何かを告げようとした。
しかし彼女もまた言葉を嚥下し、「なんでもないです」と綻ぶ。
気にはなったが自分が先に言葉を嚥下したため追究はしなかった。
微妙な空気を散らすため、鈴理は真衣に寛ぐよう促した。
今ここで部屋に戻れと言っても彼女は戻らないだろう。
徹夜をする自分に付き添ってくれる優しい姉だと分かっているため、鈴理は真衣にベッドで寛ぐよう指示する。
自分は何か軽食を調達してくると一笑した。
明け方まで起きていたために小腹が減っているのだ。
調理場に行けば何かあるのではないかと高を括っていたため、鈴理は真衣に待ってくれるよう頼んで部屋を出た。
静まり返っている廊下。
歩く度にぺたんぺたんと素足から音が奏でる。
スリッパを履いていないため余計に音が鼓膜を打った。
ひんやりと冷たい床に足の裏をくっつけては、そこを蹴って前進する。まだ洋館全体が眠りについているため、廊下は不気味なほど静かだった。
ダイニングルームでさえ距離がある我が家だ。
調理場は更に遠く、行き着くまでに数分掛かった。
物静かな調理場に到着すると、巨大な冷蔵庫を漁ってみる。
「なんで我が家には軽食がないんだ」
取り出せど取り出せど、出てくるのはケーキにババロア、生菓子、シナモンロール。軽食にしてはなかなかヘビーである。
ポテトチップスやポップコーンといった軽食を以後、導入させるべきかと鈴理は溜息をついた。
「まあ、あまり軽食を取っても太るだけなのだが」
はてさてどうしたものか。
冷蔵庫に菓子類を戻した鈴理は壁に背をくっつけて一列に並んでいる食器棚に目を向ける。
ひとつひとつそこを開けていき、軽食らしきものを探してみると、ビスケットの入った箱を見つけた。
しめたと笑みを浮かべる鈴理はそれを取り出すと、腕に抱えて調理場を後にする。