前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
それでも誰より想っていると自負している自分もいる。
そして誰より優先して欲しいと想う自分がいる。
矛盾と欲が交差してしまい、鈴理は苦笑いを零した。
「睡眠不足のせいか?」
やけに湿気た気持ちになってしまうと頭部を掻いた。
早く部屋に戻ろう。
止めていた足を動かし、前方を向く。
再び足を止めてしまった。
目を削ぐ。
渡り廊下の末端で自分と同じように朝日を眺めている人物がいたのだ。
父だ。
広い洋館、しかも時刻は早朝。
なのにこうして父と鉢合わせになるなんて、どのような偶然なのだろうか。それともこれは必然?
瞠目している鈴理に気付いたのか、父英也が此方に視線を流してくる。
殆ど会話をしなくなった父と対面するのも久しい。
スルーして脇をすり抜けるのも手だが、なんとなく気が引ける。
結果、視線を逸らすことしかできず、鈴理はその場で佇んだ。
「鈴理。スリッパ」
裸足じゃないかと注意される。
「野生児ですから」
平坦な声音且つ素っ気無く返すと、「そうだな」お前は本当に手を焼かせる娘だとおどけられた。
はて、父は酔っているのだろうか?
こんな反応を返されるなんて予想外だったのだが(てっきり溜息をつかれると思った)。
「お前は誰に似たんだろうな。こんなにお転婆になって。
意志の強い子だとは思っていたが、その固さは岩並みの硬度。両親も上回る。頑固者だと呼ぶべきかもな」
「……父さま?」
「鈴理の幸せを思っての婚約だった。その気持ちは今も変わらない。大雅くんは好い青年だ。お前と喧嘩ばかりしていたが、きっとお前を支えてくれる。そう信じている。
だがそのためにお前を傷付けたのも事実だな。
―――…無理だけはするな。睡眠はしっかり取りなさい」
それだけ告げて、父は踵返して一足先に洋館へ入った。
残された鈴理は勝手なことばかり言うなと毒づきたくなった。
一方で、やや戸惑う気持ちが芽生えてしまう。
あれは父なりの声援と受け止めて良いのだろうか?
自分が何かしていることは知っているだろうが、どのようなことをしているのかまでは把握していない筈。
「少しは認められているということなのだろうか?」
それなりに自分の娘として評価をしてくれているのだろうか?
鈴理の胸の内で疑問符が泉のように湧いた。