前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―


そうですよ俺は、スチューデントセックスを断固拒否している男っすよ! それでも頑張ってお誘いしてるんっす!
 
どーんと両膝をついて頭を抱える後輩は、「これでもイメトレしてきたのに」木の幹に手を添えて落ち込んだ。

彼はブツクサと、羞恥を忍んで台詞だって考えてきたのに、キャラじゃない? そうっす。キャラじゃないっすよ。自分でも分かってますよ畜生。


……それはそれは落ち込んでいた。
 

頭上に雨雲を作る後輩に目を細め、「玲はどうした玲は」あんたには婚約者がいるだろ? と問い掛ける。

癪だが、この質問を聞かざる得ない。

婚約者は彼のことを好いており、彼もまたそれを知っている。


彼女の気持ちを蔑ろにして性交のお誘いをするほど、彼もチャラけた男ではないのだ。


彼は肉食系ではない、草食系だ。
どちらかといえば恋愛に消極的である。


その彼が自分をお誘いするなど異常事態だ。


鈴理の問い掛けに後輩は間を置かず返答する。

「彼女には内緒っす」

だって彼女に言ったら怒られますもん、振り返って一笑を零した。


「これでも貴方の親衛隊の目を振り払って来たんっすから。御堂先輩は俺を監視、じゃね、観察しているようですし」

「なるほど。あたしと密会をしたいというのか? それは御堂財閥を裏切ることになるのではないか?」


やや辛辣に物申せば、「いえ」その逆です、彼はすくりと立ち上がってスラックスについた土ぼこりを払う。


「これは御堂財閥のためっす。でなければ、こんな行動は起こしませんよ。貴方は竹之内財閥の三女、繋がっておけば必ず利益になります。
だったらどんな手を使ってでも俺は貴方と繋がりを持とうと思いまして。

ふふっ、すみません。俺ってどーしょうもなく卑怯な男なんで、貴方の気持ちも利用させてもらうんですよ」

いつからこんなにあくどい後輩になってしまったんでしょうね。
 
他人事のように語る後輩の背を見つめていた鈴理は、「させられているのか?」と冷静に尋ねた。
 
こんな行為、後輩が望んでするわけがない。だったら誰かに強制、否、御堂家の長に強要されて動いているとしか考えられない。彼は命に従うだけの理由をもっている。
 
一々身なりを整えて自分の心情を隠す後輩は数秒沈黙を作った。


「御堂財閥の意思は俺の意思。それ以上も以下もない」
 

だから貴方の交渉を迫るんです。
 
口角を持ち上げる彼は、

「俺を好きにしていいんですよ?」

それこそ今まで逃げ回っていた行為を受け入れ、この身を捧げることも可能だと目を細めた。
 

「なんなら試してみます?」


おいでおいでと手招きして、ゆるりと彼が歩き出す。
 
何処に行くのだと声を掛けても足は止まらない。

仕方がなしについて行くと、そこは体育館から少し離れた用具倉庫。


自分達の始まりの場所だ。

 
あらかじめ鍵を開けていたのだろう。
半開きになっている引き戸に手を掛け、彼は先に中に入ってしまう。


鈴理は直感した。

これは不味い展開だ。

今の彼なら本当になんでもしそうである。本能が警鐘を鳴らしている。


それでも後をついて行ったのは、彼を想う気持ちがあるからだ。
逃げ出すことも可だったが、鈴理はそれをしようとは思わなかった。
 

薄暗い用具倉庫に足を踏み入れると、「挟まれないよう気をつけて下さいね」待ち構えていた空に注意を促される。


静かに引き戸が閉められた。
 
天窓から零れる日差しが遠い。
湿気た空気を切り裂くように、「さてと」俺は何をすればいいっすか? 貴方の言葉一つでどうとでもやれますけど。

マットに向かう草食くんに鈴理は目を細め、「ブレザーが邪魔なのだが」小さなちいさな命令を口にしてみる。

「分かりました」一笑してブレザーを脱ぐ彼に、「ネクタイも」更なる要求。「いいですよ」惜しみなくネクタイを外す。

「ボタンは外すな」あたしが外したい。その命令にも、「了解です」彼は快く承諾した。

「空。あたしは目隠しプレイをしたいのだが」


自分の知る彼ならば、顔を引き攣らせるであろうこの発言。


「俺自ら目隠しをした方がいいですか? それとも先輩が目隠しをしてくれますか? ネクタイで代用はできると思いますけど」


後輩は笑顔で要求を受け入れてくるばかりだ。


(本当になんでもする、つもりか)


いや、これは少しばかり美味しいかも……鈴理は少し考え、空に命令する。



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