前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



鈴理先輩、貴方にも謝りたい。

そんな気持ちも無いのに動揺や同情心を煽ったり、気持ちを利用したり。


演技であろうと最低なことをしてしまった。


もう一度会うことが出来るなら、面と向かって謝りたい。

そして言いたい。
こんなヘタレ受け男なんて忘れて、新しい受け男を探して欲しい。鈴理先輩は人が好いからすぐ新しい受け男が見つかる。

大雅先輩だって俺様だけど超好い人だ。受け男になってくれるかどうかは話が別だけど、婚約者のままでも俺は良いと思っている。



ぼんやりと宙を見つめてブランコを揺らしていると、通学鞄からバイブ音が聞こえていることに気付いた。


息を吹き返した俺は膝に乗せている通学鞄に目を落とし、ゆっくりとした動作でチャックを開ける。

重たい教科書達を退けて内ポケットから借りているスマホを取り出した。
 

忘れていたな。

これも御堂家に返さないと。電話の相手は御堂先輩ご自身か。

電話に出ずスマホを眺めているとバイブ音が切れた。

諦めてくれたかと思いきや、また着信が掛かってくる。


御堂先輩は幾度となく電話を掛けているようだ。


ということは俺のやったことに気付いたのかな。

出て行ったことに気付いたのかな。


出ようかどうか凄く迷ったけど黙秘していた罪悪が片隅にあったから(ご両親にもご挨拶していないな)、俺は画面をスライドさせて電話に出る。


『繋がった! 豊福、君かい?! 聞こえているか、豊福! 今何処だ。君は何処にいるんだ!』


ギィ…、ギィ…、とブランコを前後に揺らす。

薄っぺらいスマホの向こうからケタタマシイ御堂先輩の声が聞こえてきた。

なんて言えば分からない。

これぽっちも言葉が出てこない。


ただ聞こえてくる婚約者の声が妙に心地良かった。
 
 
『いいかい豊福、今すぐ口を開かなければ、再会したその日の夜に抱くからな。
いやその場で抱く。もう抱いてやる。遠慮なんてしない。泣いても喚いても必ず君を抱く。君の苦手にしている鏡プレイなんて序の口だぞ。
まずは、そうだな。ケータイ小説を勉強したところ、性欲を強める薬があるらしいからそれで』
 

……、前言撤回。心地良くねぇよい。

スマホから耳を離して遠目を作っていると、また通学鞄からバイブ音が鳴った。

スマホからじゃない。
鈴理先輩から借りた携帯からだ。


右手にスマホを待ったまま俺は左手で従来型の携帯を取り出し、ボタンを押して左耳に当てる。


『空、あんただろ! うそぴょんとはどういうことだ! あんた、あたしを煽るだけ煽っておいてセックスの件はうそぴょん、だと?!』


アウチ、声でけぇ。鼓膜が破けそう。


『今何処だ! あたしは決めたぞ。あんたが抱かれることを強制されているなら、あたしが抱いてやる。
おお抱いてやるさ! 他の女に抱かれるよりかは数千倍マシだ! ウェルカム昼ドラ展開なのだよ! ただしアブノーマルは必然だと思え!』

 
……、これは新手の脅迫電話なんだろうか。

両手に携帯機。両耳に聞こえてくる不謹慎。俺はもろ手を挙げてお手上げである。

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