ラッキービーンズ~ドン底から始まる恋~
「調子いいなあ」と笑っておいたけれど、もしかしたら八木原くんもそれが本音なのかもしれない。

明るく見せてるからって辛いことが何もないなんて限らない。


うじうじとしている自分は好きになれないのに、八木原くんが同じだって聞くとホッとしている。


そういう人の方が人間らしくてずっといいと思ってしまう。

そんなありがちな矛盾。


それから二人で駅までブラブラと歩いた。

隙あらばくっついてこようとする八木原くんをかわしながら歩くうちにすっかり酔いは醒めてしまった。


それでも絡めてくる指を解けなかったのは。

お酒が残っていたのかそれとも。

ほんの少しだけ八木原くんに親近感がわいたせいなのかもしれない。


八木原くんは私と同じ電車に乗って同じ駅で降りてくれた。

送ってくれるつもりらしい。


悪いと思って何度も断ったけれど、あまり頑なに断ると信用していないみたいでそっちの方が罪悪感が出てきてしまった。


だって八木原くんはふざけてくっついてくることはあっても、もうキスしたりはしてこない。

私が引いた一線を守ってくれてるんだって分かった。
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