亡國の孤城 『心の色』(外伝)
その扉の前には、誰もいない。
周囲にも、人っ子一人存在しない。
一見、警備もとられていない不用心な部屋に思えるが………。
警備なんて、要らないのだ。
この扉の向こうにいる男は、誰かに守ってもらう程、弱くない。
狙われる事を、娯楽の一つとして見る様な…………そんな奴なのだから。
「………………あの日から。…………………………あのクーデターの日から………だ…」
巨大な、黒い扉の目の前で佇んだまま、バレンは天井を見上げて呟いた。
その両手には………細身の、長い剣。
ギュッと握った二本の剣をブラブラと揺らせば、その切っ先が床を何往復も走り、傷を入れていく。
………重苦しい扉を、バレンは片足で軽く蹴った。
本の少しだけ押した扉は、その直後、独りでに……口を開け始めた。
………金切り声で鳴く扉は、更に暗い口内を見せていく。
徐々に広がっていく黒い隙間から、何も変わらぬ風景が見えてきた。
広過ぎる部屋の奥。その真ん中に………黒い縦長の椅子。
奥の壁に立て掛けてある女の肖像画を見詰める様に、こちらに背を向けた椅子。
空気と冷たい闇しかないこの部屋に、奴はいるのだ。
矛盾しているが。…………何も無い中に、あの男はいる。
「………………………………あの日から…………枝を伸ばしていたお前は…………でかくなり過ぎたんだ……」