亡國の孤城 『心の色』(外伝)



「ああああああ!!」














波打つ炎に混じりながら、思い切り回し蹴りを放つ。


空気を蹴り破るそれは、咄嗟に屈んだクライブに避けられた。

瞬時に詰め寄ったクライブの素早い突きを躱すと同時に、バレンの姿は再び炎となって散り…。



―――…一瞬でその背後に回り込んだ炎は、クライブの背に切っ先を突き付けるバレンの姿となった。




艶のある長い白髪を垂らした、見慣れた背中。






昔は、この背中に何度絡んだか。






何度追いかけたか。




















「―――忘れた」






ギュッと塚を握り締め、炎と同化した半身をひねり、目の前の空いた背中に向かって………鋭い突きを、放った。










吸い込まれる様に、真直ぐ。

赤い刃は………。


















―――瞬間、闇にのまれた。



「―――っ…!?」



刃が鮮血を求めて貫こうとしたクライブの身体は、直前、黒い靄となって消え失せた。


バレンは剣を構え直し、辺りに目を凝らした。






この明るさだ。
炎に囲まれた中で“闇溶け”など出来る訳が無い。




……ならば、今のは…。





「………くそっ………卑怯な真似しやがっ………ぐあっ…!?」



…突如、背後から伸びてきた手が、バレンの後ろ首を掴んだ。





形の無い、実体など無い筈の炎と同化したバレン。

だがそんな事など完全に無視した事態だ。





バレンの首を掴んだ腕はそのまま、彼を床に押し付けた。

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