亡國の孤城 『心の色』(外伝)
顔面から思い切り床に打ち付けられたバレンは、鈍い痛みに声を漏らした。
起き上がろうにも、がっしりと首を押さえられて抵抗出来ない。
左手に握っていた剣を蹴り捨てられ、右手の甲を固いブーツの底で踏まれた。
…息をしようと上下する胸を圧迫する様に、背中は膝で押さえ付けられた。
………すぐ耳元で、聞き慣れた、掠れた低い声が囁かれた。
「………………卑怯…?………同意の殺し合いでは、卑怯も何も無いだろう?………………………………貴様のその魔術は………元々は…私が教えてやった黒の魔術だ…………………貴様の技など、どうにでも潰す事が出来る………」
感情の無い、クライブの声。
冷たい床に密着したままなんとか首を曲げ、乱れた赤い髪の隙間からクライブを睨み付けた。
「………っ………てめぇ……!」
「………闇の本質を知っているか………?………バレン…」
囁かれる低い含み笑いと共に、バレンは身体から熱が奪われる様な感覚を覚えた。
……炎で出来ていた半身は徐々に燻り、元の生身へと戻っていく。
………真っ黒な、蠢く闇が、身体を這っていた。
それは部屋中を覆っていた熱気、火の壁にも浸食し、光という光を食らっていく。
………太陽を食らう、夜の様に。
「………無限の闇に………のめないものは、無い……………」
再び暗闇で充満し始める室内。
そこら中に走っていた焼け跡も、燃えたぎる熱も、嘘の様に無くなってしまった。
「……………楽しかったか……?…………バレン…」