Hamal -夜明け前のゆくえ-


「俺みたいにずっと“アイツ”って呼んでる奴に“祠稀”って言うのはちょっとなあ」


あ……。

サッと血の気が引いた。そんな僕を見て、店員は大笑いしながら何度も肩を叩いてくる。


「わかってりゃいいんだよ! 次から気をつけろ、次からっ」

「お、お兄さんは、最初から知ってたんだよね……?」

「知ってた知ってた。だからそんな青くなるなって。飯出すくらいしかできねーけど、俺もおやっさんもお前らの味方だから」

「……」


厨房で煙草を吸っていた店主は僕の視線に気付くと顔を背けた。


無愛想なイメージは払拭できずとも、じわりと温かなものが胸に拡がっていく。


僕はもう一度だけ――その前にフードを取って、目を白黒させる店員と向かい合い、会釈した。



僕はこの街で色んな人に会ったけど、悪い人ばかりじゃないと知っている。


出会った人の数よりとっても少ないけれど、知ってるよ。



「ひなた」

「……、ヒナタ? 日に向かう、の?」

「そう。アイツの名字。ひなたって書いて、ひゅうがって読むんだと。これ、超ーっレア情報。内緒な」


店員はうひひと悪戯っ子みたいに笑った。


そうなんだ。そういう名字だったんだ。祠稀は自分の名前をクソだと言っていたから、どうでもいいんだろうけど……。


「本当に光みたい」


太陽の光じゃなくても、月でも星でもいい。


あったかくなくたっていいんだ。


祠稀がいればそこだけが、僕のひなたになる。


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