Hamal -夜明け前のゆくえ-
「待って、今……っ」
かすかに震える手で携帯を操作し、電話をかけた先は中華飯店だった。昨晩のこともあり、そこしか思い浮かばなかった。
出て……お願いだから、早く出てっ……!
耳元で鳴り響くコールに、こんなに祈ったことはない。出てくれないことに、こんなにも焦燥感を覚えたこともなかった。
ダメだ、繋がらない。今日は定休日だった? どうしよう。他に、他に頼める人は――…。
「祠稀っ! 頑張って歩いて! 鈴さんのとこ行こうっ」
「鈴……?」
「僕ちゃんと家覚えてるから! ここから10分もかからないよっ。待ってこれ……貸すから着てっ」
半袖の上に羽織ってきた薄手のフード付きロングカーデを祠稀に着せ、フードも被らせた。
これで血も顔も隠せるし、あとは人目を避けながら自然さを装えれば……。
「頑張って祠稀。僕がいるから」
祠稀が思うように足を動かせなくて、鈴さんが住むアパートに着くまで倍の20分はかかった。
「階段上れる? 3階まで行けそう?」
相当しんどいんだろう。呼吸の荒い祠稀はゆっくり首を振った。
その拍子に血の滴がまた一滴、地面に落ちた。
「ここにいて。すぐ戻ってくるからっ」
アパートの外壁の内側に祠稀を待機させ、鈴さんの家に走った。