Hamal -夜明け前のゆくえ-


肩で息をしながら部屋の電気がついていることに安堵し、インターホンを鳴らそうとした手をぐっと握り締める。


「鈴さん……!」


ドンドン、と祠稀がそうしていたことを思い出し戸口を叩くと、やがて鈴さんは出てきてくれた。


「あれ、きみ……」

「祠稀を助けて! すごい怪我してっ……苦しそうなんだ!」

「は? なに? 祠稀、怪我したの? ひとり?だよね」


鈴さんは廊下に顔を出し、辺りを見回す。


「下にいるんだっ。動くのもつらそうで、鈴さんに診てほしくて、だから……」


焦りのせいかうまく言葉が出ない。すると細くしなやかな手が、僕の肩に添えられた。


とん――と肩を押し退けてきた鈴さんは「ごめん」と言った。


「もうすぐ彼氏が来るんだよね。診てあげたいけど、祠稀との関係聞かれたら面倒だし。彼そういうの許さない人だから。祠稀もただじゃ済まないだろうし……ごめんね。帰って」

「――待って! ちょっと診てくれるだけでいいからっ」

「うわっ! ちょっと、しつこい!」


そう言って鈴さんは、僕が伸ばした手に後ずさった。


懐かしささえ感じる絶望が、人の姿を借りて眼前に現れたようで。僕を嘲笑うそれに、ガツンと後頭部を殴られたようだった。


「ごめんね! 本っ当にごめんっ」


顔の前に手を立てた鈴さんは微苦笑し、少しの逡巡もなく急いで戸口を閉めた。


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