空しか、見えない
のぞむが続いた。

「えー、知らない。もしかして、うぇっ?」

 千夏が、戻す真似をする。
 のぞむがその様子を見て笑う。笑うと、頬から顎にかけて深い皺が寄るようになったのを、佐千子はのぞき見る。前はえくぼがあった場所に、まるで大人っぽい皺が刻まれた。これまでよりずっと表情豊かに過ごしてきた日々の証のようだ。そうでなければ、アメリカでは生きて来られなかったろうか。
 その分、のぞむはえくぼがなくなったのだ。あの、少しはにかむような表情に浮かんだえくぼ、なくしちゃってやんの、と佐千子はひとり感慨にふけらないようにと自分に言い聞かせる。
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