空しか、見えない
「ねえ、奥さまに、こう言ったらいいと思うわ。これからはもっとがんばって、君を幸せにするからって」

「マリカ、ウィ、ウィ、ちょっと待って」

 しばらく、言葉が出なかった。息をのみ込む間がマリカには必要だった。涙もこらえた。

「サヨウナラ」

 マリカが彼に日本語で話したのは、はじめてだった。
 一緒にいると、父の匂いや肌の質や金色だった体毛などを思い出した。
 もうずっと会っていないし、父もフランスの田舎の方に戻って再婚したと聞いているけれど、一度くらい自分から連絡して会ってみようか。電話を切ったマリカは目を閉じた。

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