空しか、見えない
「やっぱり、サセのニュースペーパーだったみたいだね。Would you like to read it? お前も読むかい?」

 パソコンを軽くクリックし、子どもに向かって、そう話しかけてみる。
 でも本当は、ひとりで読みたい。深夜のマラソンランナーのようにサセがまとめた記事なんだから、たったひとりで静かに読みたい。
 自分が勝手なことばかり望んでいるのは、わかっている。ひとりきりになりたいと思ったり、ルーに甘えて食事の世話までさせたり、そして結局サセやハッチのメンバーには、新聞を読んだよ、という返事すらできないでいる。
 もしも扉を開いてしまったら、パソコンの画面を通じて、みんなの目がこちらに向かってくるような気がして仕方がないからだ。
 のぞむ、あなた一体、何しているの? この先、どうするつもりなわけ? 
 千夏の呆れた声が、すぐにも聞こえてきそうだ。
 いや、のぞむのことよりルーの方を案じる仲間も、あるかもしれない。純一やマリカは、いつもバランスよく周囲に気配りがあるから、ルーと子どもの心配を始めるだろうか。

「それより、腹が減ったよ。今日のディナーは何かな? お前のママ、本当に料理が上手だからな」

 また、息子に向かって話しかけてしまう。
 膝の上の赤ん坊の体は、しっとりと汗ばみ、この頃ではずいぶん重量感が増した。頭から清潔な汗の匂いがする。
 何しろ生まれる前から知っているのだ。愛おしくないかと言えば、嘘になる。
 だからこそ、ルーとは中途半端な関係を結んではいけないように思ってきたのだった。ルーが醜いわけでも、色気がないわけでもなくて、この子の母親には手を出してはいけないのだと、のぞむだって必死に自分に言い聞かせてきたのだ。
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