空しか、見えない
 芙佐絵の横には千夏、その後ろに環とまゆみと純一の3人の列、最後をのぞむと佐千子が泳ぐ。

「えーよこーらい」

 見張りの漁船から、ねじり鉢巻姿の漁師さんがメガホンで声をかけてくる。

「えーよこーらい」

 皆でかけ声にこだましながら泳ぐ。
 水を掻き、水面に顔を上げ、前へ前へと進んでいく。ひたすら繰り返すそのリズムを取るのに、こんなにいい音頭はない。

「サセ、もっと力を抜いて」

 佐千子にペースを合わせながら、のぞむが言う。

「そうだー、そこの最後、力が入ってるぞー。もっと楽に」

 メガホンからも、声がかかる。
 ひとりでさんざん練習してきたのだから、のぞむになんて言われたくない。佐千子は、少し意地になり、余計に力みそうになる。でも、まるであの頃と同じだと、苦しさ紛れに少し笑ってしまう。
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