空しか、見えない

 夜になって出かけたホタルの小川では、純一がやけに真剣になって携帯で写真を撮り、送っていた。すぐに着信音があったから、婚約者から返事をもらったみたいだ。
 まだ華奢な子どもたちの輪でしかなかったおしゃもじハッチは、それぞれ体を逞しく成長させて、今はもっと大きな輪になった。
 ここへ来てからのバディ一人ひとりの様子が、佐千子の脳裏に焼きついている。
 環は、岩井へ到着したのぞむを見るなり、
「やっぱり、そうだったか」と、あっけないような口調で呟いた。
 それからやけに、佐千子にそっけなかった。
 だが今朝、遠泳の直前になって、こう声をかけてきたのだ。

「俺、あいつのこと、許してやることにしたよ。だからサセも、がんばれよ」

 環は自分に何をがんばれと言ったつもりなのだろう。泳ぎについてなのか、のぞむについてなのか。大体なぜ、急にのぞむを許したのか。
 けれど、直前までギプスをはめていたはずの環は、海へ入ると、まさに水を得た魚のようだった。初日からすでに、体力もフォームをすっかり取り戻しているような泳ぎで、晴れやかな顔になった。
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